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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(オ)1345号 判決 1969年6月19日

上告人

関西砂糖元受株式会社

代理人

浦上一郎

阿部甚吉

被上告人

佐藤清春

被上告人

帝国絲業株式会社

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人浦上一郎、同阿部甚吉の上告理由について。

所論指摘の事実関係に関する原審の認定判断は、原判決表示の証拠関係に照らして肯認することができる。そして、原審の確定した事実関係のもとにおいては、上告人の本件土地に対する賃借権が建物保護法一条二項(昭和四一年法律第九三号による削除前のもの)の規定により対抗力を失い、また被上告人佐藤清春に所論の過失がないとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(岩田誠 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 大隅健一郎)

上告代理人の上告理由

第一、原審判決は建物保護に関する法律旧第一条第二項(以下旧第二項と称す。)の解釈を誤つた違法がある。

一、旧第二項は建物が地上権又は土地の賃貸借の期間満了前に滅失又は朽廃した時は地上権者又は土地賃借人はその後の期間を以て第三者に対抗し得ないと規定している。この点に関し、原審判決はこの規定の解釈として東京都中央区日本橋浜町二丁目五五番の一五所在家屋番号同町五五番の一〇、木造瓦葺二階建店舗一棟建坪一〇坪(33.05平方米)二階八坪(26.44平方米)(以下旧建物と称す。)は滅失したから旧第二項の解釈として上告人の借地権は被上告人、佐藤清春(以上被上告人佐藤と称す。)に対抗し得ないとしている。然し乍ら借地法の規定によると、賃借権は建物の朽廃によつてのみ消滅し、建物の滅失は消滅原因となつていない。(同法二条、三条、十一条)この場合、旧第二項の規定は借地法の規定によつて修正せられ、本件の如き場合は建物の朽廃によつてのみ借地権は第三者に対抗し得なくなるのであり、建物の滅失の場合はふくまれないものと解すべきである。これは本件土地の借地関係につき前主たる山口幸雄(以下山口と称す。)の地位を承継した新土地所有者たる被上告人佐藤は本件土地の賃借関係が借地法の規定によつて律せられるという状態をそのまゝ当然承継するものと解せられるべきであり、この様に解するならば、旧第二項の規定は前記借地法の規定によつて当然修正されたものと解すべきである。(広瀬武文著、日本評論社、借地借家コンメンタール、二九頁、我妻栄著債権各論、中巻の一、五〇〇頁)更に前法たる旧第二項は後法たる借地法の規定により自動的に変更されたとも考えることも可能であり、又この様に解することの方が自然でもある。(有斐閣、注釈民法十五巻、二七八頁)

二、判例も間接的ではあるが前項の理論を認めたものも存する。即ち、建物滅失後の借地人の敷地利用につき地主の異議のなかつた場合、借地法第六条の法定更新の適用を肯定しているものがこれである。(大判、昭和六年四月二一日、民集二七五頁)<以下略>

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